AIでSaaSを内製するとは、既製サービスを丸ごと無条件に置き換えることではない。自分に必要な機能を見極め、サーバー・WordPress・AIを組み合わせて、月額固定費を小さくする選択肢を持つことだ。私は月額数万円で借りていたツールの一部を、サーバー中心の低コスト運用へ置き換えた。しかも自分はコードを書けない。
この話をすると、たいてい「たまたま簡単なものだったんでしょう」と受け取られます。でも私は、保守メンテナンスだけで月80〜100万円かかる世界にいた人間です。作る側にも、売る側にもいました。だからこそ、いま起きていることの意味がわかります。
トップページで「資産をつくる三種の神器 ― サーバー × WordPress × AI」と書きました。この記事は、その3つ目「AI ― 人件費を溶かす道具」の裏付けです。抽象論ではなく、実際に何を内製して、何がいくらになったのかを書きます。
2010年代の常識は「作るか、借りるか」だった
少し前まで、Web上で何かの仕組みが欲しいとき、選択肢は2つしかありませんでした。
- 作る — エンジニアに依頼する。初期費用が数十万〜数百万円かかり、その後も保守費が毎月発生する
- 借りる — SaaS(月額サービス)を契約する。初期費用は安いが、使い続ける限り毎月払い続ける
個人や小さな事業者にとって、現実的な選択肢は後者だけでした。メール配信スタンドに月数千円、アクセス解析ツールに月数千円、フォームツールに月数千円。1つずつは安く見えても、揃えると毎月それなりの固定費になります。
この構造が、いま崩れています。理由は3つあります。
コストが壊れた3つのカラクリ
カラクリ1|基礎技術は、とっくに原価ゼロになっていた
ここが一番誤解されている点です。「高度な技術だから高い」のではありません。
クリック位置を記録する仕組み、メールを送信する仕組み、データを保存する仕組み。これらは10年以上前からある成熟した技術で、追加のソフトウェア利用料を抑えやすい領域です。ただし、通信・保存・バックアップ・メール配信には費用と運用責任が残ります。必要な規模を見極めれば、月額千円台のレンタルサーバーの余力で始められるケースはあります。
つまり月額料金には、技術だけでなく、安定稼働、わかりやすい画面、サポート、セキュリティ対応をまとめて引き受けてもらう対価が含まれます。自分の用途が限定的なら、その一部を内製へ移せる余地があります。
カラクリ2|月額の正体は「見やすい管理画面」だった
では何にお金を払っていたのか。大きな部分は「見やすい管理画面」への対価です。
データを集めること自体は難しくありません。難しいのは、そのデータを人間が一目で理解できる形に整えること。グラフにして、色を付けて、並べ替えられるようにする。この画面を人間のデザイナーとエンジニアが作ると、当然コストがかかります。だから月額で回収する必要があった。
ところがAIを使うと、データの中身に合わせた管理画面の試作と修正を、短い往復で進められます。汎用品ではなく、自分のデータに合わせた専用品を検討できる。ここで、月額を払い続ける以外の選択肢が生まれました。
カラクリ3|「壊れたら直せない」が解消された
自作の最大の弱点は、機能ではなく保守でした。作れたとしても、壊れたときに自分で直せない。これが怖くて手を出せなかった人は多いはずです。
いまは、エラーのログをAIに渡せば、原因候補と修正案を整理できます。「保守してもらう」だけだった選択肢に、「AIと確認しながら自分で直す」が加わった。保守費が完全に消えるのではなく、AI利用料と自分の確認時間へコスト構造を組み替えられるようになったのです。
保守月100万円の世界にいた人間として
私は2011年からWebに関わってきました。サービスをローンチする側にも、それを売る代理店側にもいました。その経験から、3つだけ具体的な話を書きます。
① 良いツールが作れたのに、続けられなかった
手応えのあるツールが完成しました。しかし保守メンテナンスだけで毎月80〜100万円かかる。
回収するには、1人あたり月額2万円なら100人、理想の4万円でも相当数の契約を「毎月切らさず」維持し続けなければならない。計算した瞬間に、不安が走りました。良いものを作れたかどうかではなく、固定費が事業の寿命を決めてしまう。この感覚は、経験した人にしかわからないと思います。
② 数百万円払ったアプリが、審査で止まった
会員向けのアプリをプログラマーに依頼し、一括で数百万円を支払いました。ところがストアの審査で止まります。理由は「この要件ならウェブサイトで十分。アプリとしては認可できない」。
通すために、さらに費用をかけて過剰な機能を足してリリースしました。結果として残ったのは「経歴が多少豪華になった」程度です。
いま振り返ると、審査側の指摘は正しかった。ウェブサイトで十分だったのです。この失敗があるから、私はいま「WordPressで十分すぎる」と自信を持って言えます。
③ 毎月100万円単位だった人件費が、数千円になった
広告代理店にいた頃、Webクリエイター、プログラマー、SE、ディレクターを抱えていました。人件費は毎月合計100万円単位です。
いま、同じ種類の制作・運用実務のかなりの部分を、月額数千円のAIでまかなえています。人の価値が消えたという話ではありません。発注する側と受注する側の両方を経験した人間として、桁が変わったと言えるという話です。
実際に、これを内製しました
言葉だけでは意味がないので、このサイトで現に動いているものを挙げます。いずれも既製SaaSの完全互換を目指したものではなく、自分の運用に必要な範囲を、サーバー・WordPress・AIの組み合わせで動かしているものです。
- メール配信の仕組み — 登録フォーム、属性ごとの絞り込み、一斉配信、解除リンク、開封の計測まで
- アクセスの可視化 — どこがクリックされ、どこまで読まれたかの記録
- AI観測所 — 毎日のAIトレンドを自分の基準で記録し、可視化するページ
特にメール配信は、市販のツールなら月額数千円から、規模によっては数万円かかる領域です。内製では追加SaaS料金を抑えられる一方、配信到達率、解除処理、個人情報の扱い、バックアップを自分で担う必要があります。この差を理解した上で選べることに意味があります。
そして重要なのは、私が書いたのはコードではなく指示だという点です。AIがコンピュータを操作して、実装まで進めてくれる。これがいまのAIの本質で、「チャットで質問に答えてくれる便利なもの」という理解とは、できることの範囲がまるで違います。
内製に向くもの・SaaSに残すもの
| 判断軸 | 内製を検討しやすい | SaaSを優先する |
|---|---|---|
| 用途 | 自分の運用に絞った機能 | 多機能・高い互換性が必要 |
| 失敗時の影響 | 検証環境で戻せる | 顧客影響が大きく即時復旧が必要 |
| データ | 少量で管理範囲を把握できる | 大量の個人情報・厳格な監査が必要 |
| 運用 | 人間が確認する工程を残せる | 24時間の監視・専門サポートが必要 |
内製は「SaaSを敵にする」話ではない。自分で持つ方が強い部分と、専門サービスに任せる方が安全な部分を分ける。その判断ができることが、AI時代の実務力になる。
正直に書いておくべき注意点
良い面だけ書くのはフェアではないので、代償もはっきり書きます。
SaaSを使わないということは、顧客のデータが自分のサーバーに直接保存されるということです。今までサービス提供者が代わりに背負ってくれていた責任が、自分に移ります。
- バックアップを自分で用意する(消えたら戻せません)
- 不正アクセス対策を有効にする
- 取り消せない操作は、必ず人間が確認してから実行する
最後の項目は、私自身が今まさに守っているルールです。実際、未使用ファイルを自動削除する仕組みを作りかけて止めました。もし自動化していたら、使用中のファイルを60件以上消していたことが後の検証でわかっています。便利さと引き換えに、取り返しのつかない操作を自動化してはいけない。これは内製する人が最初に持つべき感覚だと思っています。
なぜ「サーバー × WordPress × AI」なのか
ここまで読むと、AIさえあればいいように見えるかもしれません。違います。3つ揃って初めて成立します。
サーバーがなければ、AIが何かを作っても置く場所がありません。地味ですが、これが土台です。月額数千円のこれ一つで、配信の仕組みも計測の仕組みも自分のものになります。
WordPressがなければ、作ったものを人に見せる入れ物がありません。そしてこれは、コードを書けない人が扱える最上級の表現の場でもあります。
AIがなければ、サーバーもWordPressも「持っているだけ」で終わります。10年前、私は同じサーバーを持っていました。でも作れなかった。変わったのはAIです。
どのAIが一番良いか、という問いに私は答えを出していません。用途によって使い分けているからです。実装はこれ、文章はこれ、下調べはこれ、と役割を分ける。「一番良いAIを選ぶ」より「使い分ける」ほうが、変化の速いこの分野では確実に強い。ツールは半年で入れ替わりますが、使い分ける力は残ります。
リストという資産を持っている人と、これから持つ人へ
すでに顧客リストや読者リストを持っている人は、この話はすぐ回収できる投資です。毎月払っている配信ツールや解析ツールの固定費が、そのまま浮くからです。
まだ持っていない人にとっては、意味が少し違います。これから資産をつくるための、最も堅実な武器です。
理由は単純で、サーバーもWordPressも誰にも止められないからです。プラットフォームの規約変更でアカウントが消えることもなければ、サービス終了で明日から使えなくなることもない。積み上げたものが、そのまま自分に残ります。
私は一度、固定費で事業の寿命が決まる怖さを味わいました。だからいま、固定費をほとんど持たずに同じことができる状況の意味が、実感としてわかります。10年前にこれがあれば、あの不安は要らなかった。
そして今日も、この記事を書いている裏側で、私はコードを1行も書いていません。
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